- 2007-09-10 (月)
- ART特集
Anna Gaskellは女の子の微妙な闇をうまく写真にとらえる女流写真家。
この一冊は、「不思議の国のアリス」をモチーフに、光と陰を絶妙なバランスで使いこなして怪しい世界観を生み出すことに成功しています。絡み合う、それぞれの顔が曖昧な幾人のものアリスたち。アリスがアリスをいじめたり、みんなでくっついたり。その様は、まさに異様とも呼べる光景。観ているとなんだか不安感すら感じてきます。
"同一人物の複数化"は、観る者の確固たる自己同一性を危ういものとしてきます。そして"見えない顔"は、そこに観る者を投影させるためでしょう。まさに読者がこの写真集の主人公であり、共鳴した瞬間、私たちはもうこの世界の登場人物なのです。ここに写っている彼女たちは、人々の"妄想の世界への渇望"を具現化するための"器"、と捉えても面白いかもしれません。現実世界における"アイデンティティ"を揺らがされることによって妄想の物語に入り込みやすくなった我々は、annaの世界の顔のない幾人ものアリスそのものとなるのです。
子供時代に妄想した童話の世界が目の前にこうして広がる様は、観ていて飽きません。本のサイズも33.4 x 24.2 cmととても大きく、この大きさはちょうど本を手に持って広げたときの視野範囲ギリギリなので、本を開いた瞬間、まさにannaの世界が観る者を襲ってきます。というわけで、写真集においてはその大きさもまた重要なポイントになってくるというものの良い例でしょう。
好きな人はとことん好きであろう、annaの写真。
花のように可憐でいて、しかしそこには計り知れない闇が潜んでいる。女の子ならではの世界を女性独特の感覚で表現されています。他の写真集でもモデルは女性に限っていたりと、女性独自の目線で女性のみを捉えている面白い作家です。物語性を重視している点では、なかなか希有の作家かもしれません。
Posted by TOMO (keiichi nitta studio)
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