- 2007-09-22 (土)
- ART特集
「犯罪の風景 ある日、ある場所で。」
縣 正三
8×10(エイトバイテン)の大判カメラによって切り取られた日本の或る風景。この写真集のなかで連綿と続くそれらは繊細な描写でいて、どこか儚く悲しい。一見、尾中浩二の風景写真を思わせる様でいて、しかし限りなく確実に"なにか"が違う。意識的に人を避けて撮ったからなのか、この写真集には人がほとんど写っていない。にも関わらず、なぜか人の気配を感じてしまう。注意深く見てみると、縣氏によって切り取られたこれらの風景が人工的なものであったり、極めて人と隣り合わせの自然ばかりであることが見て取れる。実に奇妙な写真集。幾度となく、開いてしまう。
タイトルにもある通り、これらは「犯罪の風景」なのであった。
過去に歴史的犯罪の行われた場所が写真家・縣(あがた)氏の手によって撮り集められ、その場を説明する文章とともに写真が編まれている。コンセプトとしては非常にユニークであると同時に、極めてシンプルでストレートな、感動とはまた違った衝撃を読み手に伝えてくる。8×10の選択も実に巧い。過去の犯罪現場の現状を写し伝える上で、精密かつリアルな特徴を持つ8×10の他に適したカメラがあるだろうか。ワンコンセプト、リアルディスクリプション。写真集の場合、これだけでも優れた一冊が出来上がる。その良い例として挙げられる一冊と言って良いだろう。
序文の最後には以下のように綴られている。
《殺人現場は時が経つにつれ風化し、当たり前の日常に戻るが写された表層の向こう側に「ある日、ある場所」は今もある。写真に先入観を持つことは本筋と思えないが、それでもキャプションを読んでから見る「人のいない風景」に、個人個人それぞれの感慨をもつのではないだろうか。》
人は想像することのできる生き物である。そして縣氏は、そうした、人が元来持つア・プリオリを利用し、なんの変哲もない風景写真に意味をもたらすことを実現した。そういった意味でいうと、この写真集は新たな可能性を作り出したと言っても良いのではないだろうか。
LINK → 縣正三写真集「犯罪の風景」
Posted by TOMO (keiichi nitta studio)
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