- 2007-08-26 (日)
- ART特集
art特集もひとまず今回でラストということで、最終回の今日は写真家から少しはなれて、写真を観る立場の人・写真評論家の本に着目したいとおもいます。
飯沢耕太郎・著《写真とことば―写真家二十五人、かく語りき》
「よき写真家は、よき文章の書き手でもある」という序文からはじまる本書は、写真評論家として有名な飯沢耕太郎氏によって編まれた、"写真と向き合う写真家たちのことば"の本です。25人の写真家を紹介するととともに、それぞれの写真ではなく"ことば"に注目するという一見変わった写真批評物ですが、これがまた、写真行為を繰り返す上でなにが重要かを教えてくれます。最近では、「写真家は写真を撮ればいい、自分の写真などについてウンチクや言い訳を言う必要はない」などといった傾向が強くありますが、それは明らかなる間違いといえます。写真は本来こそ「メタ言語的表現」であるわけですから、そこに言葉が付随してくるのはなんら不自然なことではありません。写真を撮れば撮るほど、写真に対する言葉というのは溜まっていくものなのです。そういった自然なことを、本書は再認識させてくれます。
本書でも紹介されている森山大道氏などに関しては、写真界きってのことばの魔術師です。その巧みなことばによる写真分析論を垣間見ていると、氏の有名なフォト・スタイル《アレ・ブレ・ボケ》が如何に小手先の表面的な表現ではなく、根本的な部分から写真という闇を捉えようという意識が見えてきます。ただ《アレ・ブレ・ボケ》をマネしたところで森山大道にはなれないのは、こうした「表現以前の写真への意識、その言語化」の有る無しに大きな違いがあるからに違い在りません。
そう、良き写真家ほど写真を自分なりに言語化している。本来メタ言語的存在である写真ですが、彼らの脳髄では更にメタ写真としての言語が潜んでいるということではないでしょうか。それなしでは、メタ・ランガジュージは有り得ないと、こうくるわけです。
本書はテキスト中心ですから、中身の紹介をし出すとキリがありませんので、少しでも興味を抱かれた方は本屋さんで手にとってみてください。まだまだ手に入りやすい本です。写真入門書として、これから写真を学んでいこうという若者には必須と呼べる本でしょう。
ということで、今回でart特集には一区切りをつけることになります。
これまでご愛読いただきました皆様方、ありがとうございました。
Posted by TOMO (keiichi nitta studio)