- 2007-08-23 (木)
- ART特集
写真家・藤代冥砂氏による、妻でありモデルである田辺あゆみさんを撮った写真集。ページには写真と、それをどこで撮ったか、そして1行ずつのコメントが入り、独特のペースで展開してゆきます。
写真家・中平卓馬氏も言っているように、本来写真とはメタ・ランガージュとして存在する一面がありますから、写真に言葉を添えるというのはどこか反則のような気もします。でもそれが許せてしまうのは、奥さんへの愛がそれによって更に相乗的な効果を生み出すからでしょう。愛の前ではなんでも許せてしまうのが人の心情のようです。
心を許せる相手だからこそ、見せることのできるユルさや絶妙な表情。まっすぐにレンズの先を越してお互いが見つめ合っているのがはっきりと伝わってきます。荒木氏の言葉を借りるならば、「男と女の間には写真機がある」ということなのでしょう。写真集のもつ特性として、「編むことで写真家の思いを伝えることができる」というものがあると思いますが、これもまさにその性質を最大限に引き出すことに成功している一冊。
惜しむらくは、写真に添えられているコメントが撮った当時に残したものでなく、編む段階で記憶を思い出して綴っているということ。どうしても写真とコメントとのあいだに温度差を感じてしまい、勿体なく思ってしまいます。それでもその温度差・時間差を生かしてラストをうまくもっていこうと意識しすぎ、ラストが嘘っぽく無理矢理な構成になってしまったのは残念です。それでもステキなラストではありますが、ここで突き抜けるような、終わりのない終わり方をしてくれたら、それは荒木氏の「センチメンタルの旅」のような傑作になったことでしょう。
愛する人を撮ることの素朴なよろこびを再認識させられる一冊です。
Posted by TOMO (keiichi nitta studio)
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